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■旅と大きな空

南の島に行ってきた。マレー半島の右側に浮かぶ小さな島。
友人が年に1、2回必ず行っているという場所。
秋にも行くんだけど一緒にどう?と誘われて、思いつきのように同意した。
二人で島に行くのよなんて話をしていたら、同じ職場の男の子が、
「ああ、いいですね。俺も行きたい」というから「おいでよ」と。
それもほとんど考えなしに同行が決まって、なんだか妙な3人組で行ってきた。

とにかくシュノーケリング。
大きな海ガメに会って夢中でついていったり、
珊瑚の原色に目がくらくらしたり。本当に空を飛んでいるみたいで、
気持ちよくって時々怖くて、どっちにしろ「わー」とか「すごー」とか
声が出ちゃって、海水を飲んでその都度あわてた。

友人は何回もこの島に通っているだけあり、現地の知人が多かった。
そのうちの一人のボートで人の住んでいない島にも行った。
砂が白くて眩しくて、目を開けていられない。
砂浜は珊瑚の死骸の粒だということが感覚として理解できた。
美しいけれど、しんとしている。
逆に海の中は雑多に色で溢れ、狂暴なくらいに生命で溢れかえっていた。
帰りに彼の母さんのところでやしの実をもいでもらって、汁をガブガブ飲んだ。
1Lくらいありそうな量だったけど、汗をかいた体は不思議にそれを吸い込んだ。
飲み終わるとナタで割って、中の実をスプーンでこそぎとって食べる。
それはぷるんとした食感でおいしかった。

ハンモックでぶらぶら揺れたり、
ただベンチで本を読んだり、絵をかいたり。
最後の夜は、浜辺で焚き火を囲んだ。
島の人々の「キロロー」「ミライー」とのリクエストに
きろろの『未来』を歌った。
いっぱいの星を見ながら心を込めて歌った。
母さんを思う歌だよと教えたら、
えー、恋愛の歌じゃないのかよーとがっかりされた。

彼らは恋の歌が大好きだ。しかもちょっと悲しいやつ。
町に行くとコテコテPOPS調の泣き節が、
いろんなスピーカーから流れてた。

でも現実の恋は楽しいのが好き。
楽しくなくちゃと言う人に「ハイハイ、そうだね、楽しくなきゃね。」
なんて笑って流そうとしたら、真面目な顔して、
「本当に、恋は、楽しくなくちゃだめ。だめよ、ダメ。」と繰り返してくる。
しょうがないから、私も神妙な顔をつくり、
「そうだね、その通りだね。」と言う。

何歳?
結婚はしてるの?
子供は?
初めましての後にはこの質問を必ずのようにされて、
31だよ、してないよ、いないよ、と答えるとびっくりされる。
まじで~?!なんで結婚しないの?!などと言われる。
あまりに心からの驚きと疑問なので気分を害するどころではなく笑ってしまう。
正直に答えたいと言葉を探すんだけど、どう言ったらいいのかわからない。
私自身の語彙の少なさはもちろん、
何でかっていう問いの立て方自体の新鮮さへの戸惑い。

今の彼は?今はいないよ。
前の彼は?どんな人だった?と聞かれる。
優しい人、などと適当に答えながら、
前の前の前の彼であるところの人のことを思い浮かべていた。
こんな遠いところで、このように光り輝く海を前に、
優しい彼を思い出せていることが、とてもうれしい。

島の男の人たちは午後になると、カフェのオープンデッキに集って
おしゃべりしたり新聞を読んだり、ちょっと若い人たちはビリヤードをしたり、
それぞれのんびり過ごしている。(しごとはどうしてるの?)
子供は完全放牧状態で、いったい誰が誰の子かわからない。
みんながなんとなく子供に注意を払ったりかまったりしている。

おおらかさ、人の良さ、
生活のためにバランス良くついた筋肉。
女の子のシャイな笑顔。

この島だってさまざまな問題を抱えている。
新しく建設中の港がさんご礁を破壊していること、
でもそれで観光客を呼べるようになるという矛盾。
島を出て行く若いひとたち。
「私の彼は島での生活しか知らなくて、それがいや」という女の人。
外への憧れと、経済の格差。
単純にこの生活を羨むのはたぶん違うのだろう。
でもその本質的な輝きにはやはり憧れる。
この人たちとこの島は素敵だと、素直に思った。

山に雲がかかり雷が鳴り、また雲が去って、
空が青を海に写す。その繰り返しと、浜を吹く風。
夕方、ピンクをまぶした淡い光に全身が包まれる感覚。
目をつぶって少し集中するとそれらを取り戻すことができる。
頬に吹く風すら感じる。

今ここであの場所を思う。
この瞬間にもあの風が吹いている。
彼らがそこで海を見ている。
ここではないどこかに確かに存在する「今」に思いを馳せると、
なぜだろう、目の前の今がより確かなものなる。心が満ちる。

私にとって旅というのは、そのような場所を自分のなかに作る
ということに大きな意味があるように思う。
人生自体がよく旅に喩えられるけれど、たぶん本当にそのようなものなんだろう。
心にいろいろな場所を刻んで、抱いて、最後の最後に私はどこへ帰るのか。
途方もなくてわくわくする。空を仰ぐ。



by sho-ji21 | 2005-10-05 00:00 | エッセイのような

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