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■ちょっといいこと


彼は学校で先生に教わった。
これはいいことです。これをしたらいい子よ。
覚えたてのいいことをスキあらばしたい、してみたい。
単純な動機。
おじいさんに席をゆずってみた。
お母さんに誉められた。
泣いてるトモダチに声をかけてみた。
先生が誉めてくれた。
うれしい。

誉められたあのことをもう一度してみたい。
スキあらばもう一度したい。

トモダチに優しくした。
また先生に誉められた。
誉められたいからしたのかなぁ。
それってもしかしたらなんか違うのかな。

ぽつりと沸いたその疑問に呼応するように、
だれかがだれかにこう言ってるのが聞こえてくる。
「あいつ、誉められたいからっていい子ぶってさ。」

ちょっとだけいいことをするのが気が引ける。
別にぼくがそう言われたわけじゃないんだけど
ぼくがそうなわけじゃないんだけど、
でも。

でも、それからずいぶんたったある日、
勇気をだして席をゆずってみた。
おばあさんはなんだかとてもうれしそうに
ありがとうありがとうって何回も言っていた。

うれしい。なんだかうれしい。
誉められたいから、なんかじゃないよ。
なんか、だってうれしいや。

でも、もしかしたら。

これって僕の自己満足じゃないのか。
うれしいからいいことするのか?
なんかばかみたいじゃない?
それって動機不純ってヤツじゃないの?

また小さな疑問が湧いた。
さらにいっぱい年月がたち、彼は恋をして、
進路に悩んで、自分のなかの
いらだちとか凶暴さが手に負えなくって、
ちょっといいことなんて、どうでもよくなる。

またずっと時間がたって、彼はもう社会人。
大人ってのがなんなのか、
よくわかってはいないけど、
たぶん世のなか的に大人。
だと思う。
恋人もできた。
なんだか世界がぴかぴかしだす。
ちょっといいことだって
自然にできたりして。

でも、もう、いいことはいいこととして、
自覚されてしまっているので、
そしていいことをしてしまった自分を外の世界から
見るすべも知っているので、それは、なんだか
特別なことだ。

いいことしてるなぁ。照れくさいよなぁ。
なんつうか、見ないで。
見ないで、みなさん。
オレ今、イイコトしてる~って顔してない?
大丈夫かな~イヤだよな。
なんていうのも全部、ただの自意識だよね。
あほだ、オレ。

そんな彼が事故に会う。
スノボでころんだだけだけど、足を折った。
会社に通う電車の中でも
改札口を抜けるときでも
いちいちしんどいことが良くわかる。
邪魔にならないように一番端の改札を選んだのに、
そのうしろから人々は先を急ぐ。
右の松葉杖をいったん左手にもちかえて定期を入れる。
出てくる方に近寄るのに時間がかかり、ピンコンなる機械。
それを見て舌打ちして隣の改札へ流れる人々。
いつも使うターミナルは縦横無尽に人が行き交い、
それだけで脅威だ。
先進国ってなにがだよ。
どこもかしこもなってないよ。
どうなってんだ。
そんなことをはじめて思った。くたくたになった。

ギブスがとれて電車にのって
白い杖のおじさんをホームに見かける。
黄色いブツブツが足元で途切れて、
立ち止まっている。
杖が探るカンカンという音だけが聞こえる。

彼は考えるより先に、声をかけていた。
今までだったら「余計なお世話」な可能性を、
もう1・2秒は考えただろう。でも、なんだか、
彼は動いちゃったんだ。

---たぶんそういうことなんだと思う。

いままで当たり前だった何かを疑問に思ったり、
実際に今までにない側の経験をしたり、
そんなとき、いちど全部がチャラになる。
そのチャラになる感覚が「解体」なのかもしれない。
解体なしに次にはいけない。

「小さい頃と同じように純粋な気持ちでいいことを。」
なんて嘘っぱちのスローガンだ。
そんなのムリ。というか、全然意味ない。
疑問に思ったり、判断に迷ったり、
その状態は「解体」中だからフリーズしているんだ。
そんなとき、いいことをできなくっても多分、いい。
そこで解体前の状態を思い出せとかナンセンスもいいとこ。
壊して組み立てて壊されて気付いて、また組み立てて。
そうやって人は次へいくんだ。

いいことを「する」「しない」の結果だけでいうと、
人はそれらを綿々と繰り返してるだけにみえるのかもしれない。
解体の前と後とで両極へふれて。
でもそれはただの往復運動ではない。
ぐるぐるぐるとネジのように、
たぶん以前の「する」といまの「する」では
位相のちがう「する」にいるんだろうと思う。
ぐるぐるぐるぐる。
また同じところ?とげんなりしても、
たぶん遠くの景色の見え方が少しだけちがう。

「いいこと」はメタファー。
世の中のいろんなことは、あらゆることのたとえ話。

by sho-ji21 | 2003-03-13 00:00 | エッセイのような

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