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春のような


季節外れの大雪が溶けたあとには、あちこちから緑が芽吹いた。冬の乾燥した土地が、みずみずしく生気を取り戻していくかのよう。毎年このあたりという場所の枯れ草をかき分けてみると、まだちいさなふきのとう。あちこちかきわけて、やっと片手におさまるくらいが採れた。貴重な先人たちよ、我が家で美味しい蕗味噌になるがよい。いや、なってください。さっそく夕ご飯に出すとさすがの初物、家人たちの箸ののびることよ。あっとういうまに完食。これからイヤってほどとれるよね。たのしみたのしみ。小鳥がさえずりながら枝を揺らしていく。彼らは、自分の体から出ている音があんなにもかわいらしいと知っているのか。(いや、男らしくなんと勇ましい声、という自認なのやもしれぬ)これは、春か。春なのだな。三寒四温が甚だしく、なかなか油断を解くことができないでいる。

# by sho-ji21 | 2025-03-28 14:49

山の雪の日


今年いちばんの大雪。山に住んでいると雪の日のほうが生き物の気配を近くに感じる。単純に足跡が残っているからというのもあるし、鳥が木の枝から羽ばたくときに雪を落としていく音など、意外に賑やかなのだ。今朝はキジバトが土間に来ていた。我が家の土間には籾摺機があるので、米のついた籾も多く落ちているのだろう。(うちの鶏もここにきて籾をよくついばんでいた)晴れた日には、人間に気づくと飛んで逃げていってしまうのに(「ククククッ…」)、今朝はこちらを気にしつつ土間にい続け食べ続ける。他の食べものは雪にうまってしまったのである、やむなし。といった風情。ずっと見てしまう。 

薪ストーブの横でぬくぬくとゲームをしていた次男がやっと外に出てきたらしい。歓声が遠くにあがる。崖をソリ(立ち乗り)で滑り落ちていく彼の勇姿は、すっかり雪の日の風景だ。長男も出てきたので二人でカマクラをつくる。次男は時々見にきては、内部の広さを確認するように中に入りそして出ていく。入る、といってもお尻をねじ込むくらいなのだが。制作者二人を励ましたのちに、またソリを使った崖すべりに戻っていく。そんな合間でしかし急に、雪合戦状のやりとりが兄弟間で勃発する。喧嘩に発展したりしなかったり。気づくと異様な熱心さで雪を盛り、固め、しているのは私ひとり。なかなか美麗な(小ぶりの)かまくらが完成した。と思うと急に、寒い。とっくに家に入っている二人を追いかけるように、私もストーブのある場所へと戻っていく。

# by sho-ji21 | 2025-03-19 14:35

歯医者にて

最近、知人が歯科衛生士として勤める歯科医院に通っている。昨年急な歯の痛みに遭遇した際、長く通っていた医院が予約がとれなかった。色々他の医院をあたってみたが、どこも数ヶ月先の予約しか取れぬという。弱りはてその知人に相談すると、比較的早めに行けそうだったのでお世話になった。そのままその流れで、定期検診を数ヶ月に一度受けている。その方とは子どもどうしが保育園からの同級生。すごくほがらかで話も合う。誘ってお茶したこともあるしもう、友人って呼んじゃってもいい?(いらぬ用心深さ)


 通い始めて3回目、先日はその友人本人が担当になって歯石をとってくれた。そんなことは当然想定内ではなかったのか。否、なかった。なんとなくそれは想定していなかった。「今日はわたしが」と不敵に笑われて、別段不敵にでもなかろうがそんなふうに顔と顔を見合わせて、私も「お手柔らかに」などと笑顔で返し、若干の動揺はありつつもその想定外を喜んだ。椅子に座りしばしの雑談をかわしたのち口をあけて、上の歯肉の状況をチェックしてくれる。細い針状のなにかをさしていくあれ。下の歯に行く前に一度「はい、うがいしてください〜」の休憩が入った。その隙間で、「ねえ」と低い声が出る。なんだろう、この気持ち。「わたしこういうシチュエーション人生で初かもしれない。友人に…。歯肉を…。」(あ、友人って言ってたな)アハハ!と軽やかに笑って彼女、「そっか!そうだよね、でも大丈夫、わたしはある〜」と言ってくれる。そうか、逆の状況(彼女が友人の歯や歯肉をあれこれすること)はあるわけだ。大丈夫。彼女はプロなのだから様々な歯を見てきているし、知った人の口腔内くらいじゃひるまないことはわかっている。身を委ねる覚悟はとうにできている。それとは異なるこの戸惑いはなんだろう。恥ずかしさとは違うんだよな。


 下の歯肉のチェックも終わり、うがい。少しの雑談。「はい、じゃ歯石とっていきますね〜」で倒される椅子。大きく口をあける。わかった!久々に会うあなたと、わたしはあれもこれもたくさん話したいのに、時々の休憩を挟んで定期的に、「ただの歯と歯肉」という存在になるそのことがおもしろいのだ。いつだって誰が相手だって、わたしは歯医者の椅子の上において「ただの歯と歯肉」であってきたのだったが。ではあるが、数年分の彼女との関係性における「わたし」が休憩時間ごと顔をのぞかせるそのことによって、そうではない時間の「ただの歯と歯肉」感が際立ってるのだ。いったりきたり。ちょっと話しちゃうからこそ、次のターンで真顔でパカーと口開けてる自分がおもしろくてたまらない。あ、いまわたし、歯だ。というような。すごくイデア的、概念としての歯。歯そのもの。


その時間が終わり、じゃあねとありがとうを告げ、笑って手をふり部屋を出る。もう彼女に会いたい。おもしろかったよ、歯として横たわりながらこんなこと考えてたよ、と話したかった。またね。



# by sho-ji21 | 2025-03-01 17:21

おしゃれだよ

 春めいた日に赤いアイラインをいれた。次男に「ここ、どした?」と聞かれる。言い淀んでいると、「おしゃれ?」と続けて尋ねてくる。「うん、おしゃれ」とまっすぐ答える。「これはおしゃれです」という回答は、もしかしたら生まれて初めてしたのでは。一般的に、それはおしゃれかとの問い(そこに含まれるものが悪意であっても気遣いであっても)に対するこちらの返答は、「え、変?」「え、だめ?」くらいだろう。次男からの問いが混じり気なしだったからこその、「これは、おしゃれ、だよ!」なんたる新鮮な、堂々たる宣言。


# by sho-ji21 | 2025-02-26 09:53

とりくみ

 なんとなくではなく積極的に「こっちだ」と選んで優しいほうの言葉を口にする。これはいいかな言わずとも、と思うその一言をしかしわざわざ言ってみる。ありがとうとか、助かったよとか。そんな、言っちゃえば拍子抜けするようなことどもを、少々の意図を(少々ながらしかともって)発語する。ということを意識してみてる週間。ていねいな生活とかじゃなく、実験として。とりくみとして。




# by sho-ji21 | 2025-02-05 12:04