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池のはた


池端を一人で歩いていたら、一人の男の子が
迷いのない様子でまっすぐ私に向かって、
魚を獲りました!と、叫んだ。だから私も、
獲ったか!と知り合いのように返した。
近寄ってみると、それはその男の子の腰ほどまである
真っ黒の大きな鯉だった。
網から半身を乗り出した格好の鯉が口をパクパクさせている様は、
こどもが遊びでという程度をかるく超えており、漁か、と笑った。

その後に通りかかり、またも「魚を獲りました!」と
報告された犬の散歩のおばさんと私と3人で、
なんとなく、しゃがんでおしゃべり。
鯉からすこしはなれて、犬をかこんで。

犬の名前はなに、と男の子が私に尋ね、
私に聞くのはまちがえている、と思いながら
何ですかとおばさんに尋ねると、おばさんは短く、
「まりも」とこたえる。
…まるくってね、ほんとにまるかったから、と小声で私に。
たしかにまるい。まるくてしろくてふわふわしてる。
…かわいい、と私もなぜだか小声でこたえる。
男の子は、「おれのあかちゃん、まりえ!」と、一声。
まりもとまりえ。そしてまた私の顔をまっすぐ見つつ、
「にてるね!」と、目を大きくさせた。
だから、私の犬ではない。
そしてそのあかちゃんも、ちゃんと言うと、
あなたのあかちゃんではない。
でも、誇らしげで、とてもよい。
産まれたばっかり?と聞くと、あと1ヶ月で1才だと。
おばさんがまた、小声で私に、
…あらら。この子も来月で1才。
と低く笑いながら言う。
…あはは。いっしょだ。
となぜか私もまた、小声になる。

男の子の友人が2人ほど駆けて来る。
でけーでけー、とひとしきり鯉を見てはしゃいでる。
焼いて食おうと相談してる。
そっちを見てる私の手を、まりもが小さい舌で、
ちろちろと舐めている。
…(池の鯉、)食べちゃ、…だめでしょ?
とおばさん。うふふ、だめでしょう、と私。

一人の子が、かわいそうだから放してやろうぜと言い、
捕まえた子はあきらかにほっとした様子なんだけど、
まだ手放しで賛同はしていない。
私はおばさんにさよならを言ってたち上がった。
ちょっと離れて振り返ったら、まだ男の子たちは
やんややんやと盛り上がり、おばさんとまりもは
なんとなしにといった風情そのままに、
そこにしゃがんで彼らを見てた。

おばさんにも男の子にも、
ぼんやりとした好感のようなものを感じたまま、
空を見たら、風が吹いた。
晴れてはいないけど、良い天気だった。
池のはたでのこと。

by sho-ji21 | 2008-07-10 23:59

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