■沖縄を覚えている


3年くらい前の5月、那覇で働く友人を訪ねた。
最初の2日は彼女も仕事を休んでくれて、二人で車で北上。
彼女が以前から行きたかったという伊江島へ。
この島のど真ん中には「たっちゅう」という城山がある。
とんがった塔みたいに聳えていて、狭い島のどこからでも
これが見えた。普遍の象徴か何かのように。

行った日の夜はちょうど百合のお祭り。
オリオン片手に夕方からゆるく会場に座り込んでいたら、
同じ民宿の男の子たちがおーいと呼びにくる。
お祭りの「島人のど自慢」にゲストで出ろと言われたとのこと。
急遽打ち合わせて、ビートルズのプリーズプリーズミー
やなんかをその屋外ステージで歌う。
レゲエな男の子やサラリーマンも含む混成大和人。
島の中学生女子らに囲まれ、何故か握手を求められたりして。
夜が更けるにしたがって濃くなる宴。
なんと古謝美佐子さんのライブが始まる。
「童神」という私の大好きな子守唄のメロディーが、
すっかり緩んで開ききっていた心に抜き打ちのように沁み渡る。
空にはぽかりと月。お約束のカチャーシーでいっぱい踊って
いっぱい笑って、フラフラになりながらその明かりだけを頼りに、
自転車で真っ暗なサトウキビ畑の間を帰る。

友人が仕事で那覇へ戻ったあともしばらく滞在。
夜ごと誰かの三線と虫の音を聞き、波の音に身をゆだねて、
つまびくようにぽろりと歌って、泡盛を飲んで。

この島は戦争をもろに体験している。
戦後すぐの米軍による占領でも島の人の多くが餓死するという
悲惨な出来事があった。今もそれは終わったことではなく、
島の半分以上が米軍の飛行場、という島。

最後の日、反戦資料館へ行った。
見終わって事務所にて、戦後からずっーと活動を
続けていらっしゃる方のお話も1時間ほど聞くことができた。
最後に私の手をぎゅうと握り、
「今、あなたにできることをしなさい。
直接私たちの活動に対して何か働きかけずとも、
あなたはあなたの生活のなかで、守れるものがある」
と彼女は言った。
部屋に戻って堪らず涙が溢れてきて、声まで出して
泣いてしまった。私の頭を、民宿のおばさんが
洗濯物をたたむ手をとめて撫でてくれた。

そのまま、たっちゅうに登ることにする。
自転車を途中で乗り捨てて、テクテクとひたすら登る。
ちょっとしたロッククライミングだった。
ビーサンで来たことを後悔しながらただ、登る。

たっちゅうの頂上は3畳くらいの狭さ。
あんな場所は他にない。立ち上がるのが怖いくらい。
そこから見下ろすサトウキビ畑、港、小さく見える家々。
それらすべて合わせたよりもっと広い、グレーの飛行場。
360度ぐるりとさんご礁。その向こうは青い海。
そして、すべてを包む太陽と、吹き渡る風。
私の内と外が溶け合っていく。ただそこに身を任せる。
30分くらいしただろうか、あとから行くと言っていた
同じ民宿に泊まる子が、やっぱり息を切らしてのぼってくる。
その子の持ってきた三線に合わせて島の歌をいくつも歌う。
知ってる限りの歌を二人で歌った。
そこから見たとてつもない輝きの夕日を、
私はたぶん忘れないんだろう。

パゴダという遺跡があるのはどこの国だったっけ。
ミャンマー?ずいぶん立派な、あの仏塔。
むかし読んだ旅行記に次のような会話があった。
他の場所に住みたいと思ったことはないかという旅人の問いかけに、
現地の人がこう答えるのだ。
私たちにはパゴタがある。人よりも大きな存在で、永遠で、
いつまでも信じられるものがあるということはすばらしいことだ。
私は、それを失ってまで他の場所で生きていたいとは思わない。

「人よりも大きな存在で、永遠で、
いつまでも信じられるもの」。
たっちゅうが真ん中に聳えるあの島は、
私の思う沖縄がいっぱいにつまっている。
それは私の思う人間のいろいろ、でもあって。
哀しくて残酷で滑稽で、強くて弱くて優しくて、
たとえようもなく美しい。

あの夜、童神を聞きながら、
友人の赤ちゃんのことを思った。
自宅出産に立ち会ったばかりだったから、
どうしても彼女を思ったのだ。その子ももう3歳だ。
なんて確かな喜び。

また5月がきたよ。
私はあの島で過ごしたいくつかの夜を、
昼を、波の音と匂いを、
まだはっきりと覚えている。

  天(てぃん)からぬ恵み
  受きてぃ此(く)ぬ  世界(しけ)に
  生まりたる産子(なしぐわ)
  我身(わみ)ぬむい育てぃ
  イラヨーヘイ  イラヨーホイ
  イラヨー 愛(かな)し思産子(うみなしぐわ)
  泣くなよーや ヘイヨー ヘイヨー
  太陽(てぃだ)ぬ 光受きてぃ
  ゆういりヨーや ヘイヨー ヘイヨー
  勝(まさ)さてぃ給(たぼ)り
  
  『童神(天の子守唄)』作詞:古謝美佐子
[PR]

by sho-ji21 | 2006-05-12 00:00 | エッセイのような

<< グラスと棚とカフェ 母さん >>